12月号「法人の事業承継税制について」
2024.12.02
地域経済と雇用を支える中小企業の事業活動の継続を目的として、事業承継の円滑化のための総合的支援策を講ずる「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(以下、「円滑化法」)が平成20年5月に成立しています。主なポイントとして、事業承継に伴う相続税・贈与税の負担の軽減や、民法上の遺留分への対応などが挙げられます。今回は、「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除」のうち、非上場株式等についての贈与税の納税猶予・免除についてご説明いたします。
「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除」とは、後継者である受贈者・相続人等が、円滑化法の認定を受けている非上場会社の株式等を、贈与または相続等により取得した場合に、その非上場株式等に係る贈与税・相続税について、一定の要件のもと納税を猶予し、後継者の死亡等によって納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される制度をいいます。
法人版には、「一般措置」と「特例措置」の2つがあり、事前の計画策定等や適用期限があるのが「特例措置」であるという点が大きな違いです。ほかにも、対象株数や承継パターンなどにも違いがあり、「特例措置」は全株式が対象であるのに対し、「一般措置」は総株式数の最大3分の2まで、事業の継続が困難な事由が生じた場合の免除の有無なども異なります。
詳しくは、国税庁および中小企業庁のホームページをご覧ください。
まず、「特例措置」を受けるためには、(1)特例承継計画の策定・提出・確認が必要です。会社の後継者や承継時までの経営見通し等を記載した「特例承継計画」を策定し、2026年3月31日までに都道府県知事に提出し、確認を受けなければなりません。なお、特例承継計画等の提出期限の延長については、相続ニュース2024年2月号をご参照ください。
次に、(2)会社の後継者への株式の贈与が必要です。
贈与時において、後継者である受贈者は、①会社の代表権を有していること、②18歳以上であること、③役員の就任から3年以上を経過していること、④後継者および後継者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有することになること、⑤後継者の有する議決権数がAまたはBに該当すること(A:後継者が1人の場合、後継者と特別の関係がある者の中で最も多くの議決権数を保有することになること、B:後継者が2人または3人の場合、総議決権数の10%以上の議決権数を保有し、かつ、後継者と特別の関係がある者の中で最も多くの議決権数を保有することとなること。)を満たさなければなりません。
また、先代経営者等である贈与者は、❶会社の代表権を有していたこと。❷贈与の直前において、贈与者および贈与者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権を保有し、かつ、後継者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権数を有していたこと。❸贈与時において、会社の代表権を有していないこと、を満たさなければなりません。
さらに、納税が猶予される贈与税額および利子税の額に見合う担保を税務署に提供する必要があります。なお、この制度の適用を受ける非上場株式等のすべてを担保として提供した場合には、納税が猶予される贈与税額および利子額の額に見合う担保を提供したものとみなされます。
そして、(3)贈与後に都道府県知事の認定を受けます。そのためには、贈与を受けた年の翌年の1月15日までに申請を行う必要があります。
さらに、(4)事業継続要件(経営贈与承継期間)として、贈与税の申告期限の翌日以後5年を経過する日までは、後継者が代表者として事業を継続させる必要があります。具体的には、役員を除き、5年間の平均で雇用の8割以上を維持し、この制度の適用を受けた非上場株式を保有し、「継続届出書」を5年間は毎年、5年経過後は3年ごとに所轄税務署長に提出し、5年間は毎年「年次報告書」を都道府県知事に提出する必要があります。
ただし、経営贈与承継期間内にこの制度の適用を受けた非上場株式等についてその一部を譲渡した場合や、後継者が代表権を有しなくなった場合、経営贈与承継期間の末日における雇用の平均が「贈与時の雇用の8割」を下回った場合には、猶予されている贈与税を納付する必要があります。
また、先代経営者(贈与者)や後継者(受贈者)が死亡した場合や、経営贈与承継期間内にやむを得ない理由により会社の代表権を有しなくなった日以後に免除対象贈与を行った場合、経営贈与承継期間の経過後において会社について破産手続開始決定などがあった場合、特定経営贈与承継期間の経過後に事業の継続が困難な一定の事由が生じた場合において会社を譲渡又は解散した場合等は、猶予されている贈与税の納付が免除されます。
なお、先代経営者(贈与者)が死亡した場合、「非上場株式等についての贈与税の納税猶予・免除」の適用を受けた非上場株式等は、相続または遺贈により取得したものとみなして、贈与時の価額により他の相続財産として相続税を計算することになります。その際、都道府県知事の円滑化法の確認を受け、一定の要件を満たす場合には、その非上場株式等について「非上場株式等の贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予・免除」の適用を受けることができます。
このように、事業承継に伴う税負担を軽減するためには、事業承継を検討している中小企業経営者及び個人事業者の方々は、適用期限が到来することを見据え、早期に事業承継に取り組むことが望ましいといえます。相続対策・事業対策は、顧問税理士にご相談されるなど、早めに取り組まれた方が得策です。まずはお気軽にご相談ください。
ワンストップ相続のルーツ
代表 伊積 研二