9月号「相続不動産登記の義務化等」
2022.09.01
相続は開始したけれども遺産分割が未完了、もしくは、遺産分割や登記手続きにお金がかかるので価値のない土地をそのまま放置している方もいらっしゃるのではないでしょうか。遺産分割をせずに放置していると、相続人がその土地を共有している状態になり、代を経るにつれて相続人数が増えてしまい、相続登記をするための時間的・費用的・精神的な負担も増えるので大変です。それだけではなく、いわゆる所有者不明土地となり、土地の利活用が阻害され、土地管理・利用のために必要な合意を取り付けることが困難になるなど、公共事業にも影響を及ぼしています。
そこで、所有者不明土地問題の解消のための一連の法律が成立し、2021(令和3年)4月28日に公布されました。登記制度を改正し、相続不動産登記が義務化されることになりました。本制度は、2024(令和6)年4月1日から施行されます。
内容は、相続の発生を登記に反映させるため、不動産を取得した相続人(相続または遺贈により不動産を取得した相続人)に対し、相続の開始と所有権の取得を知った日から3年以内に、土地・建物の相続登記を申請することが義務付けられます。正当な理由なく申請しない場合には、10万円以下の過料の対象になります。なお、売買や贈与により取得した人や相続人以外の受贈者には、この登記は義務付けられません。
この制度については、すでに2024(令和6)年4月1日より前に相続が開始している場合には経過措置があり、「相続の開始を知り、かつ所有権を取得した日から3年を経過した日」と、「2027(令和9)年3月31日」のいずれか遅い方の日が登記申請期限になります。
では、相続の開始と所有権の取得を知った日から3年以内に分割協議が整わない場合はどのような方法を経る必要があるでしょうか。この場合は、相続税納付の場合と同様に、とりあえず法定相続分どおりの相続登記という方法があり、相続人の範囲の確定や法定相続分の割合を確定させます。このときには、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等の収集が必要です。しかし、数代にわたって相続登記がなされていない場合には、相続人の確定自体が難儀で、負担も増えます。そこで、相続人の負担を軽減する相続人申告登記制度が設けられ、相続不動産登記の義務化とともに、2024(令和6)年4月1日から施行されます。
相続人が「登記名義人の相続が発生したこと」及び「自らが登記名義人の相続人であることを登記官に申し出ること」により、申告義務を果たしたものとみなされます。この申告時点では、相続人の範囲を確定する必要がなく、相続人に関する書類は、申出をする相続人自身が被相続人(所有権登記名義人)の相続人であることがわかる戸籍謄本で十分とされ、この手続きに関する登録免許税はかかりません。これを「相続人申告登記」といい、3年以内に行えば過料は免れます。
ただし、その後分割協議が調って、不動産を取得した者が、分割協議後3年以内に登記申請を行わなければなりません。
このように、相続登記の義務化がなされます。まず、ご家族やご自身が所有されている不動産の名義を確認し、家族のうち誰に引き継いでもらいたいのか、売却して換価分割をするのかなどを検討しておくことが大切です。特に、共有の土地の場合は、話し合うべき相続人の人数が多い場合があるので注意が必要です。
相続登記の煩雑さの1つに遺産分割協議が挙げられます。遺言書できちんと指定されていれば遺産分割協議を経る必要がありません。遺言書で誰にどの土地・建物を相続させると指定してあれば相続する側が楽だったのに、と思うケースは多々あります。相続不動産登記の義務化を期に、遺言書の作成を検討されてはいかがかと思います。
ワンストップ相続のルーツ
代表 伊積 研二