9月号 「遺産の一部分割」
2019.09.02
約40年ぶりの相続法の大改正により、遺産分割に関する見直しが行われました。遺産分割に関する見直しとしては、次の4つの改正点があります。
・婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の遺贈又は贈与
・遺産の一部分割
・遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合
今月の相続ニュースでは、遺産の一部分割について、そのポイントをご紹介します。なお、今回の改正後の民法を「新法」と表記します。
〇遺産の一部分割(新法907条)
新法907条 共同相続人は、次条の規程により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
2 遺産の全部又は一部の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議することができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。
3 前項本文の場合において特別の事情があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。
※赤字部分が改正箇所(筆者による)
遺産分割は、通常、遺産の全てを一度の話し合い又は調停・審判によって分割するのが原則ですが、遺産の一部分割とは、遺産を構成する財産の一部を他の財産から分離独立させて分割することをいいます。例えば、相続人の合意によって、遺産のうち分割が容易な土地のみを分割したり、相続税の納税に充てるために一部の土地を分割して売却したりすることをいいます。
これまでも遺産の一部分割については、明文の規定はなかったものの、実務上では一定の要件下にて認められてきたこともあり、今回の改正では明文化し、一部分割の要件を明確化しました。
残余遺産が存在する又は存在する可能性があるけれども、相続人間で現段階ではその分割を希望せず、一部のみを分割したいというケースがあることから規定されました。
一部分割が効果的である場合としては、次の場合が挙げられます。
・分割が容易な遺産を先に分割し、分割が容易ではない遺産を後で検討したい場合
・相続税を納税するために、一部の土地建物を売却して換金したい場合
・遺産の範囲について係争中であるが、争いがない一部の遺産を先に分割する場合
○一部分割の制限(新法907条2項ただし書)
遺産全体について適正な分割ができなくなるなど「他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合」には、一部分割が制限されます。
そもそも一部分割は、特別受益等について検討し、代償分割や換価分割などの他の分割方法も検討したうえで、全体的に見てバランスがとれた分割ができると判断される場合に許されるのであって、一部分割によって最終的にバランスがとれない分割の見通しが立つ場合には許されるものではないからです。
〇留意点など
一部分割が明文化されたことにより、遺産分割の早期解決が可能になると期待されている一方で、一部分割が可能であるがゆえに、山林や空き家などの比較的利用価値が低い財産がそのまま未分割で放置される可能性もあると指摘されています。相続登記が何代もされていない場合など、後々の相続人が苦労するケースも増えるのではないでしょうか。
所有者が不明な土地等を増やさないためにも、一部分割を活用する場合であっても、今が良ければそれでよしという考え方ではなく、自分たちの代で解決できることは解決するという覚悟が必要だと思います。
遺産分割はややこしくなる場合が多いので、やはり新法下においても、遺言などにより生前に自分の遺産については、誰に何を相続させるのかという指定をしておくことが大事だと思います。
ワンストップ相続のルーツ
代表 伊積 研二